皆さんは”SDGsの取り組み”と聞いてなにを思い浮かべますか?
「水道の蛇口をこまめに止める」「マイバッグ、マイボトルを持参する」
もちろんこれも立派なSDGsの具体的な取り組みです。
私たちが取り組むSDGsは「何か環境に良いことをしよう」「子供たちの教育の質を高めよう」という行動ありきで始まります。
一方で海外には、最適な経済システムを目指すなかで結果的にSDGsの具体的な取り組みになっている、というケースがあります。
つまり みんなにとって1番良い行動をしたら結果的にSDGsにつながっていた ということです。
これは多くの先進国で紹介されるSDGsの具体的な取り組みとは異なる、画期的な取り組みです。
今回はフィジーという小さな島国で起こったこのSDGsの画期的な取り組みの具体例をご紹介します。
この記事を読んでいただければ、フィジーという国全体に浸透したSDGsの画期的な取り組みの具体例を知り、フィジーという国にもきっと興味を持っていただけます。
コロナが生んだSDGsの具体的な取り組み
SDGsの取り組みの具体例は物々交換?
ではここからフィジーで一大ムーブメントになっているサービスについて解説します。
このサービスは“Barter for Better Fiji” というFacebook上につくられたページにあります。
Barter for Better、つまり物々交換です。Barter for Better Fiji – Facebook
コロナでロックダウンや国境封鎖が広がるなか、お金を稼いだり外国からの流入には期待できません。
ではお金がなくなったらどうするのか?
その答えが物物交換だったのです。
I knew that money would be tight to stretch out and even harder to come by. I asked myself what happens when there’s no more money
ページ創設者:Marlene Duttaさん
“Barter for Better Fiji”は国全体の一大ムーブメント
“Barter for Better Fiji”にはフィジー人19万人以上が登録しています。
この数字がどれくらいすごいかというと、フィジーの人口は89万人ほどなので国民のおよそ5人に1人が登録していることになります。
中にはヤギや子豚などと交換に、家の修理をしてくれる人を探しているユニークな投稿もあります。
ちなみに近隣の国には似たようなサービスがあります。
トンガには “Barter for Change”、サモアには“Barter for Better Samoa” がありますが、どちらもメンバーは1,000人ほどと規模はあまり大きくありません。
取り組みのきっかけはコロナウイルスの経済的大打撃
なぜフィジーでこのようなムーブメントが生まれたのか。
理由はまさにコロナウイルスです。
フィジーではこの記事を書いている2021年5月時点でもまだロックダウンが続き、国境をあけられていません。
フィジーにとってもコロナウイルスの経済的な打撃は相当なものです。
特に影響を受けているのは観光業です。
2020年7月時点の調査では観光業の約50%が休業に追い込まれ、現在はもっと増えていると考えられます。
詳しい内容はこちらにリンクを貼っておきます。
SDGs 目標8「働きがいも経済成長も」とコロナウイルスの影響
現在フィジー全体でおよそ10万人が雇用されていない、もしくは以前のようには働けていないと言われています。
しかもその数は今もなお驚異的な増加を見せています。
ここまでの経済インパクトになると、政府の介入でどうにかなる話ではなく、本当に産業存続に関わる危機になっているのです。
なぜ“Barter for Better Fiji”がSDGsの具体的な取り組み例になるのか
このサービスでは、必要なものがある人はサービスページ上で誰かに提供して欲しいものと、自分が提供できるものを投稿します。
このサービスの面白い点は、必要なものだけでなくなぜそれが必要なのかというストーリーを共有できるところです。
新しいものをどんどん作る・買うのではなく、自分たちの持ち合わせる物の中で経済を回す。
シェアリングエコノミーと近い考え方がありますが、それだけではありません。
このページで提供されるのは物だけではなく、”相手への思いやり”です。
教育、医療から畑仕事まであらゆるサービスがこのプラットフォーム上で取引されています。
でもその実態には、相手が本当に求めることに手を差し伸べようとする思いやりがあります。
SDGsには1人1人の暮らしがよくなるだけでなく、支援が必要な人や場所にみんなで取り組もうという考え方があります。
“Barter for Better Fiji”にはSDGsの本質的な考え方と重なるところが多くあります。
このようにフィジー人は、経済的危機をなんとか打開するためにこのサービスを積極的に活用し、持続可能な世界へ自分たちで活路を見出そうとしていると言えます。
SDGsの具体的な取り組み例として考えてみる
“Barter for Better Fiji”について、フィジーの人々にとってSDGsがどれほど意識されているかは分かりません。
コロナ禍において自分たちがお互いを支え、生き残ろうとする結果としてSDGsの具体的な取り組みに繋がっているというのが実態ではないでしょうか。
ここでは彼らの取り組みを、あえてSDGsの目標と具体的な取り組みに当てはめて考えてみたいと思います。
「SDGs目標12:つくる責任 つかう責任」の具体的な取り組み
フィジーの都市開発は急速に進んでおり、2021年までには人口の56%が都市に住むと予測されています。
そこで問題になっているのが大量のゴミ、廃棄物の問題です。
政府はこれまでも様々な廃棄物処理の政策や予算を組み対応してきましたが、なかなか効果が出るまでに時間がかかっています。
“新しいものをどんどん買うというサイクルから抜け出し、今あるものを皆んなで共有する”
この新しい経済圏が国民全体に広がれば、SDGs目標12に大きな効果が得られるはずです。
何か必要になったときは買い物に行くのではなく、まず “Barter for Better Fiji” を覗きにいくというフィジー人が増えているといいます。
大量生産し大量消費し続けるのではなく、お互いに共有しあうこと。
“Barter for Better Fiji”は昔のご近所付き合いではなく、インターネット上のプラットフォームを使うことで、国民誰もが参加できる巨大なエコシステムになっているのです。
「SDGs目標4:質の高い教育をみんなに」の具体的な取り組み
コロナウイルスの拡大により影響を受けているのは大人たちだけではありません。
新規感染が確認されると学校はすぐに閉鎖となり、子どもたちは今まで通り学校に通うことが出来なくなってしまいました。
政府はリモートスタディの準備を進めましたが、環境整備が追いつかず教育の機会を奪われてしまった子どもたちがいます。
そこで塾を経営していたRatusaiさんは子どもたちの教育に不安を持つ家庭のために、“Barter for Better Fiji”で教育の提供をはじめました。
Ratusaiさんは教育を提供するかわりに受け取るものは何でも構わない、という形をとることで、誰でも参加できるようにしました。
するとRatusaiさんの投稿は瞬く間にインターネット上で話題となり、子どもの教育に不安を持つ親たちからの連絡が途絶えなかったといいます。
“After I had advertised on the Barter for Better Nadi Page, I was surprised that many parents were messaging me and asking me, sharing their problems and concerns at home,”
ABC News:Fijians turn to bartering system as coronavirus shutdowns cause mass unemployment
Ratusaiさんの取り組みはまさにSDGs目標4に直結しています。
ちなみにこのプラットフォーム上ではあらゆるものが交換されていますが、それは物ではなくサービスであったり、ほとんど無償提供のような形でも構わないのです。
「SDGs目標8:働きがいも経済成長も」の具体的な取り組み
“Barter for Better Fiji”は雇用でさえも生み出すことが出来ます。
Temalesi Taugaさん(女性/42)は5人の子どもと72歳の母親を養っていくため、家政婦として働いていました。
しかしコロナウイルスがひろがり、家政婦としての仕事が激減してしまいました。
そこでTaugaさんは自分で小さなビジネスを始めようと考え、必要なものを“Barter for Better Fiji”に投稿しました。
すると会ったこともないたくさんの人が、Taugaさんのビジネスをサポートしてくれたのです。
ほぼ新品のオーブン、ガス、原材料までビジネスに必要なものが全てが“Barter for Better Fiji”揃いました。
またTaugaさんはインタビューの中で、「あらゆるものを支援して頂いたこと以上に、子供たちを救う機会を与えてもらった」と話しています。
“You can imagine my surprise when people started helping me. I was given groceries, one person gave me empty bottles for my tamarind chutney, but above all, I have been given a chance to help my children,”
the straitstimes:World News Day: Fijians overcome hardship by bartering for goods and services
このインターネット上に集まった支援者たちの行動は、物質面だけでなくTaugaさんに働くことの希望を与えました。
これはSDGs目標8にみる、人々の経済活動を支え合う具体的な取り組みになっていると思います。
このように“Barter for Better Fiji”では物資を与え合うだけでなくビジネスの立ち上げを支援したり、雇用創出の手助けにもなっているのです。
「SDGs目標5:ジェンダー平等を実現しよう」 の具体的な取り組み
”LGBTQであろうと、我々はみんな同じ人間です。我々は同じ人間としてお互いに助けあい協力しあうべきです。だから私はこのページが大好きなんです。”
フィジーではレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスの人々は、コロナウイルス感染拡大に関係があるいう誤った報道により苦しんできました。
彼らはこのサービスの中で様々な人と繋がり、お互いを励ましあいコロナの影響が続く中でもメンタルヘルスを保ってきました。
実社会では非常によわい立場に追い込まれてしまった人々も、このプラットフォームの中では繋がりを感じることができます。
“どんな性のあり方であっても,お互いを認め平等に扱う”
この姿勢はまさにSDGsのジェンダー平等の考え方・取り組みでもあります。
SDGsの取り組みを自然に実現できてしまうフィジー人のルーツ
“Barter for Better Fiji”はなぜここまでひろまったのでしょうか。
そこにはフィジー人が持つ幸せの秘訣が関係しています。
「会ったことのない人でも助ける」「何でも共有してしまう」
“Barter for Better Fiji”にはフィジー人のルーツでもある”何でも共有してしまう習慣”が根付いています。
お金がなくなったらどうするのか?お金がなくてもみんながお互いをサポートすれば幸せに生きていける。
今回の一大ムーブメントは、この考え方にソーシャルメディアの圧倒的な拡散力が加わり実現したものです。
これまで世界は物質主義や資本主義の流れが非常に強く、フィジーのように経済の規模も小さく不安定な国は注目されてきませんでした。
しかしここにきて、誰かに共有するよろこびであったりコミュニケーションそのものに価値をおく考え方に注目が集まっています。
でも実はこれは特に新しいことでありません。
時代を遡れば、もともと人々はこのような生き方をしてきたのです。
シェアリングエコノミーやSDGsという言葉がなくても、今回ご紹介したように、人々は自然と持続可能な環境をつくることができます。
SDGsへの取り組みを具体的に考えることももちろん大切です。
その一方で、SDGsの本質は何かをしっかり捉えることが同時に必要です。
フィジー人はまさにこのSDGsの本質が国民の文化としてしみついているのではないでしょうか。
さいごに
いかがでしたでしょうか。
今回はフィジーで巻き起こっている物々交換の一大ムーブメントを、SDGsの観点から解説しました。
ご紹介したように、フィジーにはこれからの持続可能な社会に向けたエッセンスがたくさん詰まっています。
物質的・経済的にはそれほど豊かでなくても、別のところにある価値で幸せを感じる。
この考え方こそ我々日本人にいま1番必要なのかもしれません。
そんなフィジーもまだまだ解決すべき課題が置き去りにされています。
この記事を書いているSocial Innovation Fijiでは、SDGsを切り口にフィジーの社会課題にイノベーションを起こしながらフィジー人の幸福論も学んでいきたいと思っています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。もし興味をもって一緒に何かしてみたい、と思って下さった方はお気軽にご連絡ください。
幸福度No1の国、フィジーに、SDGsにつながるメディア。”Social Innovation Fiji Journal”とは
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考サイト: