環境に対する取り組みで一歩先を進むヨーロッパ、生活に関わる設備がいまだに整備されていない発展途上国、そして私たちが住む日本。
異なる社会的背景をもつ3つの地域には同じような社会問題があっても、それらに対する考え方や取り組み方に差があります。
SIF Journal「SDGsシリーズ」では、イギリス・フィジー・日本の3つの国に住むSIFインターン生の視点から、各国のSDGsに関する事例を紹介し、比較・分析を行います。
今回のテーマは「レジ袋有料化」。
プラスチック削減対策の中でも、レジ袋有料化は世界で主流となっていますが、各国の取り組みにはどのような違いがあるのでしょうか?
異なる社会的背景をもつ3つの地域でのレジ袋有料化には、レジ袋の定義づけや値段設定など、様々な面での特徴が見られました。
SDGsシリーズ第1弾となる今回の記事では、イギリス・フィジー・日本でのレジ袋有料化について紹介します。
世界を取りまくプラスチックごみ問題
現代社会において、プラスチックは生活に欠かせないものとなっています。
日本でも、スーパーやコンビニに行けば、プラスチックで包装された食品ばかり。
しかし、大量のプラスチック消費は深刻な海洋汚染につながります。
2018年のデータによると、1年間で世界の海洋に排出されたプラスチックごみは、3億1,400万kg。
そのうち180万kgは日本から廃棄されたプラスチックなのです。
海洋プラごみ年間排出量ランキング 1位:インド(126,500,000kg) 2位:中国(70,700,000kg) 3位:インドネシア(56,300,000kg) ・ ・ ・ 9位:日本(1,800,000kg) 10位:イギリス(703,000kg) |
(参考:Ranked: the top 10 countries that dump the most plastic into the ocean|Euronews.green)
もし世界中の人がこのままのプラスチック消費をつづければ、2050年までに海洋プラスチックごみの量が魚の量を超えることが予想されています。
SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」は、大量のプラスチックごみから豊かな海や海洋資源を保全するための目標で、世界各国ではさまざまな対策が行われています。
ヨーロッパは「脱プラスチック」先進国が多い
世界の中でも、プラスチック消費削減の成果を見せているのはヨーロッパ諸国。
デンマークでは1994年からすでにレジ袋有料化がなされているほか、アイルランド、スウェーデン、ベルギーなどのEU諸国では、レジ袋有料化による使い捨てプラスチックの大幅な削減が報告されています。
(参考:Single-use plastics: a roadmap for sustainability|UNEP)
世界の中でも率先してプラスチック削減に取り組んでいるイメージの強いヨーロッパですが、まだまだ課題もあるのが現状。
ヨーロッパ圏内で最もプラスチック消費量が多いのは実はイギリスで、海洋プラスチックごみ年間排出量ランキングでも日本に次ぐ第10位にランクインしています。
また、イギリスはトルコなどに廃プラスチックの輸出をしていることでも批判されており、1日で180万kgものプラスチックごみが国外排出されているという報告も。
イギリスから国外へ輸出されるプラスチックごみの量を可視化したこちらの動画は、瞬く間に広まり、ごみ輸出取り止めへの署名が37万人以上から集まったといいます。
日本でも、東南アジアの発展途上国を中心にプラスチックごみの輸出が行われており、「ごみの植民地主義」という批判の声も上がっています。
たしかに、「脱プラスチック」に向けて積極的な働きかけを見せる国の多いヨーロッパですが、イギリスのように日本と同じような課題を抱える国もあるようです。
世界のレジ袋有料化を比較
脱プラスチック先進国の仲間入りを果たしたいイギリス、発展途上国のフィジー、プラスチック消費大国の日本。
今回紹介する3つの国以外でも世界ではすでにレジ袋が有料となっていますが、世界各国のレジ袋有料化にはどんな違いがあるのでしょうか?
一口に「レジ袋有料化」といっても、国によって対策のしかたには個性があり、3つの国を比較することで、それぞれの政策の特徴や効果の違いが見えてきました。
この記事では、イギリス・フィジー・日本のレジ袋有料化について着目し、それぞれの国のプラスチック削減に対する取り組みを紹介します。
レジ袋有料化だけじゃない!再利用性も考えたイギリス
世界の中でもレジ袋有料化導入が比較的早かったイギリス。
イギリスでは、2015年10月から大手スーパーマーケットのプラスチック製レジ袋には最低5ペンス(≒7円)支払わなければならないという法令が適用されています。
その結果、レジ袋有料化以前とくらべて、74億枚もの使い捨てレジ袋の削減に成功。
2019年度時点で、イギリス国内のイングランド地域だけでも95%ものレジ袋削減を達成し、1億8,000万ポンドもの経済収入を生み出しました。
イングランド地域 ・人口:約5,600万人 (イギリス人口全体の85%を占める) ・面積:約130,400㎢ (イギリス国土全体の83%を占める) ・人口密度:約407人/㎢ |
(画像・参考:イギリスの面積はどのぐらい?日本と比較して国土の広さを解説!|Tabi Biyori)
これだけでは終わりません。
2021年4月からは大手スーパーマーケットだけでなく、個人経営の小さなお店にも法令が適用され、レジ袋価格の下限も10ペンス(≒14円)へと値上げされました。
14円って、毎回払うにはちょっと高い値段設定ですよね。
イギリス政府は、レジ袋値上げによって、10年以内に大手以外の小規模なお店でも使い捨てレジ袋の消費を80%削減し、3億3,100万ポンドの経済収入を見込んでいます。
・イギリスのレジ袋有料化導入は2015年〜 ・レジ袋有料化導入後、レジ袋消費を95%削減 ・2021年〜レジ袋の値上げを実施(5ペンス→10ペンス≒14円) ・10年以内にさらなるプラスチック削減と経済収益を見込む |
(参考:Carrier bags: why there’s a charge|GOV.UK)
実際にイギリスで生活をしていると、エコバッグを持参しているか購入した商品を手で抱えて持ち帰っている人が多い印象。
また、有料化されているプラスチック製のレジ袋は、日本のスーパーで見るような薄い素材ではなく、分厚くて丈夫なレジ袋のほうが多いです。
1枚の値段が高い分、レジ袋を買ったとしても繰り返し使えることが前提となっているのがわかります。
実際に、イギリスではこのようなスーパーの分厚い袋やレジャーシートと同じ素材でできた再利用性のあるプラスチック製の袋をエコバッグとして利用している人が多い印象です。
また、紙袋はレジ袋有料化の対象外のため、多くの小売店では紙袋を無料で提供しています。
しかし、紙袋の生産には特殊な化学物質が使用されるため、プラスチック製レジ袋の生産時とくらべて、+ 70%の大気汚染物質と約50倍もの水質汚染物質を発生させることがわかっています。
(参考:Comparison of environmental impact of plastic, paper and cloth bags|Northern Ireland Assembly)
プラスチック製レジ袋の代替として紙袋を使うことに賛否が分かれそうではありますが、イギリスでは「とにかく使い捨てのプラスチックを減らそう」という意識の強さがうかがえます。
使い捨てレジ袋を完全撤廃したフィジー
3つの国の中では、2番目にレジ袋有料化が実施されたフィジー。
フィジーでは、2017年8月からレジ袋1枚に10セント(≒5.3円)を課すことが義務となり、1年間でレジ袋の消費量を以前の半分まで減らすことに成功しました。
(参考:Fiji’s plastic bag ban to come into effect on New Year’s Day|RNZ)
また、2020年1月からはポリエチレン製で50μm以下のレジ袋、つまり薄くて再利用性のないプラスチック製レジ袋の使用が法律で禁止されました。
レジ袋をただ有料化するだけではなく、使い捨てレジ袋を完全撤廃することで、フィジーの美しい海や川を守りたいというフィジー政府の意図がくみとれます。
フィジーのきれいな海は水産資源の宝庫であり、かつフィジーの中心産業である観光業にも大きく貢献しているため、プラスチックで海が汚染されては政府としてもたまったもんじゃありませんよね。
また、フィジーをはじめとする太平洋地域諸国では、プラスチック製使い捨てレジ袋の禁止やポリスチレン製製品の輸入取りやめを積極的に実施しており、世界の中でもプラスチック削減へ向けたリーダーシップを見せています。
(参考:Fiji to ban polystyrene in 2021|SPREP)
実際に、フィジーでは日本のスーパーでよく見る薄い素材のレジ袋はなく、布のような袋が多いのですが、実はこの袋の素材はポリプロピレンという別のプラスチック。
ポリプロピレンは、医療器具や食品パッケージによく使われる素材で、耐熱性と耐久性に優れています。
また、他のプラスチックと比べて製造過程におけるCO2排出量が少ないため、環境にやさしいプラスチックともいわれています。
(参考:人と環境にやさしい素材 ポリプロピレン|日本ポリプロ株式会社)
ポリプロピレンもプラスチックの仲間ではありますが、従来のレジ袋と比較すると再利用性と環境への配慮が感じられますね。
このように、フィジーでは使い捨てレジ袋を廃止する一方、いまだにプラスチック製レジ袋に頼ってますが、フィジーの美しい海や野生動物を守るために使い捨てプラスチックの削減を進めているようです。
日本ではレジ袋有料化後も変化なし?
世界の中で少し遅れをとりながらもレジ袋有料化が実施された日本。
日本では2020年7月から「容器包装リサイクル法」が改正され、小売業を行うすべての事業者に対してレジ袋の有料化が義務付けられました。
有料化の対象となったのは持ち手があるプラスチック製の袋で、1枚ごとに1円以上が課せられます。
ただし、学園祭・バザーなどで配布される袋や海洋分解性プラスチック100%でできた袋、厚さ50um以上の袋などはレジ袋有料化の対象外。
(参考:プラスチック製買物袋の有料化 2020年7月1日スタート|経済産業省)
実際のところ、日本ではレジ袋1枚3〜5円のところが多い印象ですが、有料化の対象外となったプラスチック製レジ袋を無料で配布するお店も存在します。
日本のレジ袋は世界の中で見ると比較的低い値段設定のようですが、レジ袋有料化前後でのレジ袋辞退率は上昇し、日本政府のねらい通り「不要なレジ袋はもらわない」という消費者行動を促しているようです。
レジ袋有料化前後のレジ袋辞退率 ・スーパーマーケット:57.2%→80% ・コンビニエンスストア:28.3%→74.6% |
しかし、国内で廃棄されるプラスチックのうちレジ袋はたったの1.7%であり、具体的なレジ袋有料化の効果についてははっきりしていません。
また、レジ袋有料化によって家庭用ごみ袋の売り上げが2倍増えたというデータも。
(参考:小泉前環境大臣退任で「レジ袋有料化」見直しの声?無料復活?どちらが良いか|TBS News)
普段からレジ袋をごみ袋として使用することが多かった日本人にとって、レジ袋有料化は「あえてプラスチック製の袋を買う」という行動を促しているようです。
さらに、エコバッグを繰り返し使うことによる衛生面への懸念も寄せられています。
実際に、食品に含まれる水分や栄養分によってエコバッグ内には雑菌やカビが繁殖しやすく、農林水産省はエコバッグを定期的に洗うことや、肉や野菜など液汁が出るものはポリ袋に入れてからエコバッグに入れることを推奨しています。
(参考:賢く楽しくお買い物!〜エコバッグでも食中毒予防〜|農林水産省)
日本政府によると、レジ袋有料化は2030年までに使い捨てプラスチックの排出を25%削減し、2035年までにリユース・リサイクル率を100%目指すために実施された措置なのですが、エコバッグ使用に伴う使い捨てポリ袋の利用を促していることには疑問を感じる方もいるのではないでしょうか?
レジ袋有料化によって消費者行動が変わりつつある一方、日本ではいまだに大きな効果は見られず、メリットよりもデメリットのほうが強調されているのが現状です。
世界のレジ袋有料化を比較してわかること
イギリス・フィジー・日本でのレジ袋有料化を比較すると、3つの国それぞれの特徴が見えてきました。
まず、イギリスのレジ袋有料化は、レジ袋の値段設定が高く、成果をはっきりと示しているのが特徴です。
レジ袋有料化後、分厚くて高価なレジ袋や無料でもらえることの多い紙袋が象徴するように、イギリスは3つの国の中で最も視覚的・体感的に「使い捨てプラスチックはダメ」というメッセージを強調しているように感じます。
また、イギリス政府はレジ袋有料化後の効果を具体的な数字で示しており、政策の重要性を誰でも納得できる形で公表しているのもイギリスらしい点です。
一方、プラスチックの代替として紙袋を使用することについては、環境面で懸念すべき点もあるのが現状。
プラスチック製レジ袋削減という面では、ほかのプラスチック削減先進国と同じように効果をあげているイギリスですが、「プラスチック」を減らすことにこだわりすぎて環境問題を多面的に捉えられていないような印象も受けます。
次に、フィジーは3つの国の中で唯一ポリエチレン製のレジ袋を禁止した国です。
イギリスとは異なり、レジ袋有料化による効果をはっきりと示したデータは存在しませんが、ほかの太平洋地域諸国とともに美しい海を守るための取り組みを進めているようです。
しかし、レジ袋禁止後に主流となったのは、ポリプロピレンという別のプラスチック素材でできた袋。
ポリプロピレンは比較的環境にやさしいプラスチックではあるものの、法の抜け目をかいくぐってプラスチック消費をしていることには変わりありません。
最後に、日本のレジ袋有料化は最も変化が小さく、なぜかデメリットが強調されているのが特徴です。
まず、日本ではレジ袋の値段設定が3つの国の中で最も低く、有料化の対象外となった袋は、プラスチック製であっても無料で配布されています。
また、食品衛生を考慮してポリ袋の使用が推奨されていることや、ごみ袋をあえて買わなくてはならなくなったことなど、レジ袋削減の効果をないがしろにする日本の文化的側面があるようです。
レジ袋削減に対する消費者意識は変わりつつある一方、特に衛生関連でのプラスチック使用は日本人の生活の中に強く根付いているため、簡単には代えられないように感じます。
プラスチックの代替はプラスチック?
イギリス・フィジー・日本でのレジ袋有料化を比較してみると、それぞれの国でレジ袋の定義づけや、有料化の値段設定、効果の測定方法などに差があることがわかりました。
しかし、3つの国で共通しているのは、使い捨てレジ袋の代替がプラスチック製の袋であるということ。
使い捨てレジ袋有料化後、イギリスでは再利用性のある分厚いプラスチック製の袋、フィジーでは環境にやさしく丈夫なポリプロピレンでできた袋、日本ではエコバッグ内の衛生環境を守るためにポリ袋が使われています。
世界中でムダなプラスチック消費の削減が叫ばれる一方、レジ袋有料化はプラスチックが私たちの生活に欠かせないものになっていることを浮き彫りにしたのではないでしょうか?