皆さん、フィジーと聞いたら何を思い浮かべますか。
まずは”海がきれい”ではないでしょうか。
南太平洋に位置するフィジーは数多くのリゾート地があり、2019年には約1万4千人ほどの日本人観光客がフィジーを訪れました。
また、フィジーと言えば”幸福な国”ですね!
レジェ・マーケティング社の「幸福度調査」では世界1位に輝き、現地の人々の笑顔は「フィジアンスマイル」と呼ばれるほど素敵です。
しかしながら、フィジーでは”とある問題”がとても深刻です。
それがコチラです。
そうです、ゴミ問題です。
これは、インターン生kokoroが撮影したゴミ山と、そこで働いている方々(ウェイスト・ピッカー)の写真です。
美しいリゾート地で賑わう観光客の裏側では、このようにたくさんのゴミが放置されているのが現状です。
なぜこんなにゴミが溜まっているのか、なぜそこで人が働いているのか、フィジーは幸せな楽園ではなかったのか。
この衝撃的な写真を見て、おそらく皆さんはたくさんの疑問を抱くと思います。
本日は「フィジーとゴミ」をテーマに、どうすればゴミ山を無くすことができるのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
フィジーの「ゴミ」現状
フィジーは、環境保全に対して意識が高い国です。
なぜならば、観光と一次産業に頼った島国であるため、自然環境が日常生活に大きく影響を及ぼすからです。
例えば、気候変動のせいでサンゴ礁が破壊されると、漁業や観光業に大きなダメージを与え、それらに携わる方々の経済状況が厳しくなります。
そのため、フィジー政府は海洋保護区(MPA)の設定、プラスチック税の導入など、様々な取り組みを行っています。
しかしながら、ゴミの廃棄、処分、リサイクルなど、フィジー国内のゴミ問題は深刻です。
Cambrigeによるレポート「Sustainable Development Goal」(2021)によると、SDGsスコアは100中71.2点で、165か国中62位です。
SDGs目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」や、目標14「海の豊かさを守ろう」に対する数値は上昇しているのに対し、ゴミ問題に関連する目標12「つくる責任、つかう責任」に対しては「測定不能」、つまりそもそも発表されていないことが分かります。
具体的に言うと、目標12に含まれる目標値である電気電子機器廃棄物量、都市廃棄物量、硫黄酸化物排出量などの最新の数値が表示されていません。
また、フィジーの街中を見てみましょう。こちらはSIFのインターン生が撮ったフィジーのゴミです。
ご覧の通り、建物の屋根にゴミが溜まっています。
次に、この写真は、路上にあったゴミです。
そして、冒頭でもあったように、「ランドフィル」と呼ばれるゴミ山はフィジー各地に存在します。
ランドフィルの中に、外部に売るための”価値の高い”ゴミを目当てに、ウェイスト・ピッカー(スカベンジャー)と呼ばれる人々が溜まります。
なぜゴミ山が存在するのか
このように、ゴミ山が出来たり、ランドフィルにゴミが溜まったりする一番大きな原因は、ゴミの処分がうまくできず、どんどん溜まるからです。
数十年前まで、フィジー国内にあった製品のほとんどは自然由来のものであったため、たとえ街に捨てても、自然分解することができました。
つまり、ポイ捨てしても、許されていた時代があったのです。
ところが、物流のグローバル化により、輸入品が大量にフィジーへやってきます。
プラスチックや鉄、ガラスなど、日常生活において便利な物が大変安く、どんどん海外から仕入れられます。
しかしながら、これらのものは、すぐ自然によって分解されるものではないので、地面に放っておくだけで消えません。。
確かに廃棄物処理場やリサイクルセンターもありますが、それ以上作る経済的な余裕はないし、島国なので作られる場所も限られます。
また、海洋環境を保護するため、日本のように埋め立て地を作ることももちろん難しいです。
このように、自然分解できないゴミは処分しきれず、どんどんランドフィルに溜まり、ゴミ山ができてしまったのです。
実はフィジーに限らず、各国には各国なりのランドフィル問題があります。
開発途上国や新興国の場合は、ランドフィルの監理水準が低く、ウェイスト・ピッカーのような人々が劣悪な環境で生活していることが問題視されています。
また、法整備の遅れや意識の低さにより未処理投棄が常態化し、汚水や悪臭などを始めとする環境汚染が拡大する可能性もあります。
貧困をなくすため、また自然環境を保護するため、ゴミ処理問題を解決することは喫緊の課題です。
ゴミ山問題を解決するには
フィジーにゴミがたくさん溜まる原因、ゴミがあらゆるところに悪影響を及ぼしていることをお分かりいただけましたでしょうか。
さて、ゴミ山問題はもちろん放置することはできません。
ここでは、フィジーではどのようにゴミ山問題を解決しているのか、他国の事例と比較しながら紹介したいと思います。
JICAが支援する3Rプログラム
ランドフィルに溜まっているゴミを一刻でも早く無くす方法の一つとして、3R(Reduce, Reuse, Recycle/Return) の促進が挙げられます。
ゴミ処理のキャパシティを増やすことも重要ですが、そもそも再利用やリサイクルを通して、ゴミの量を減らすことも意識しなければいけません。
そんな中、フィジーの3Rを率先的に支援した国がありました。
それが、日本です。
2008年、国際協力機構(JICA)はフィジーの一部地域に対して、「廃棄物減量化・資源化促進プロジェクト」を行いました。
具体的には、3Rに係る廃棄物管理計画を作成したり、住民向けの環境教育プログラムを実施したり、フィジーなりの3Rモデル構築に対するアドバイスをしたりしました。
そのおかげでフィジーの一部地域の政府や住民は、以前と比べて3Rに対する意識が高まったようです。
例えばリサイクル率やリサイクルごみの分別回収への参加率の向上や、ゴミ排出量である廃棄処分率の減少などが挙げられます。
また、JICAの支援で構築された3Rモデルを基に、フィジー政府は後に生物分解可能ゴミを減らす「ナショナルリサイクリングプラグラム」を実施するなど、現在はゴミ問題の解決に向けて積極的に取り組んでいます。
https://www.jica.go.jp/project/fiji/001/outline/index.html
参考:「廃棄物減量化・資源化促進プロジェクト」JICAホームページ
「ウェイスト・ピッカー」が公認の職業!?
フィジー本島西部にあるシンガトカ町はとあるユニークな取り組みを行っています。
それが、ウェイスト・ピッカーを公認することです。
実は、ウェイスト・ピッカーこそが、3Rに大きな役割を果たしています。
なぜなら、ランドフィルに残った処分することができない、またはリユースやリサイクル可能なゴミを取り除き、業者に引き渡すという仕事を、実質担っているからです。
参加者は管理者に対し180円の登録料を支払うだけで、ランドフィル内のゴミをなんと「拾い放題」することができ、運が良ければフィジーの平均以上の月収を得られるようです。
フィジー以外にも、ウェイスト・ピッカーを公認した国といえば、ブラジルです。
ブラジルのウェイスト・ピッカーは国内のリサイクルの90%を担っているほど、3Rに大きく貢献しています。
このような輝かしい実績もあり、政府は2002年に「ウェイスト・ピッカー」を正式な職業として認めました。
「汚い仕事をやっている」と長年差別され続けていたウェイスト・ピッカーは、以前よりも高い収入を得ることができ、いつの間にか人気の仕事となりました。
その後は収集物ごとの値段が決められたり、デジタル収集マップが開発されたりするなど、ゴミ拾いの仕組みとサービスが整えられ、ウェイスト・ピッカーにとってはより働きやすい環境になりました。
政府とウェイスト・ピッカーによる積極的な働きかけにより、ブラジルはあっという間にアルミニウム缶のリサイクル率は98%で世界1位、ポリエチレンテレフタラートとプラスチックにおいては世界2位という、リサイクル大国になりました。
このようにブラジル以外にも、ナイジェリアやフィリピン、コロンビアなど、政府がウェイスト・ピッカーを職業として認めたり、積極的に支援したりする国も数多くあります。
ゴミ山をなくしたらどうなるか?
さて、仮にゴミ山がなくなったらどうなるのでしょうか。
結論から言うと、ウェイスト・ピッカーは失業してしまいます。
実際にフィリピンは過去にスモーキーマウンテンをなくす政策を取りました。
上の図のように、首都マニラにあった世界最大級のスモーキーマウンテンでは、あまりにも多いゴミの量と数多くのスラムが住んでいました。
海外のメディアにフィリピンの“悪しき名所”として取り上げられたことをきっかけに、フィリピン政府が初めて国家の恥と認識し、このエリアの再開発政策を行いました。
具体的には、住民のための仮設住宅を建設したり、学校に通えない子ども向けの学習センターを開設したりするなどの取り組みを行いました。
スラム街の生活環境が改善したことはとても良かったのですが、そこで新たな問題が起きました。
それは、失業者が増加したことです。
いままでゴミ山でリサイクル・リユース可能品を収集し、お店に売っていた住民らが、ゴミ山がなくなったことで逆に生計を立てる手段がなくなりました。
また、スモーキーマウンテンにあったゴミはすべて処分されたのではなく、郊外に移動されただけで、その後も放置され続けられていました。
失業者の多くは、仮設住宅の家賃を支払う余裕がないため、新たなスモーキーマウンテンに移り住み、それまでと変わらない生活を続けていたようです。
このようにフィリピンの経験から分かることは、仮にランドフィルのゴミがすぐ処分され、空き地になった場合、そこで働いていたウェイスト・ピッカーが失業者になる可能性もあるため、完璧な解決手段だとは言えません。
ゴミ山との共存
ゴミ山とウェイスト・ピッカーは長年、負の象徴、貧困の象徴として人々に遠ざけられ、嫌がられてきました。
ウェイスト・ピッカーを表す「スカベンジャー」という単語は、実は差別的な意味合いがあったのです。
実はシンガトカ町のランドフィルも、ウェイスト・ピッカーを不法侵入者として取り締まった時期もありました。
しかしながら、ウェイスト・ピッカーがもたらした社会的な効果は大きく、政府やNPOを始め、ウェイスト・ピッカーを排除するのではなく、ウェイスト・ピッカーと共に歩む政策を取るようにしました。
ゴミ山をなくすことでゴミ問題を直接解決することは出来ますが、ゴミ山が存在する限りでは「どうやってゴミ山と共存するのか」を考えることも重要ではないでしょうか。
例えばフィリピンでは、「スモーキー・ツアーズ」と呼ばれるNGOが立ち上げられました。
スラム住民がツアーガイドとなり、海外の観光客に向けてスラム街、スモーキーマウンテンのツアーを催行しています。
得られた収益は医療サービスや教育に回され、住民に還元されます。
このように、ゴミ山と共存しながらの支援はたくさんあるはずです。
最後に
フィジー×ゴミ山×SDGs
フィジーのランドフィルに大量のゴミが溜まり、たくさんのウェイスト・ピッカーがそこで働いているのを見て、私達は心を落ち着かせることができないかもしれません。
しかしながら、日本からの協力、市民の意識の変化などによって、フィジーのゴミ問題は少しずつ改善されています。
最近では、ウェイスト・ピッカーをサポートし、協力しながら、3Rや貧困削減などを行っている国も増えてきているのです。
私達も決して、ゴミ山を悲観的に見てはいけません。
ゴミ山をなくすことも重要ですが、どうやって共存するか考えることも重要です。
ゴミ山だからこそ作れる新たなビジネスチャンス、エシカルのあり方をたくさん見つけることができるかもしれません。
それこそ、SDGsで求められる考え方ではないでしょうか。
まさに「ゴミ山×SDGs」!!!
日本に住んでいる私達がすべきこと
さて、日本に住む私たちにも、やらなければならないことがあります。
それは、普段から3Rを意識することです。
実は、2020年、日本が海外に輸出した廃プラスチック量はなんと82万1000トンです!
それが、日本にゴミ山が存在しない理由の1つであり、もしかしたら他の国のゴミ山になっているかもしれないのです。
決してリサイクルが上手く行っているとは言い切れません。
環境保護のためにも、私たちも普段からゴミの量を減らしましょう!
私達SIFも、フィジーにおけるSDGs貢献のためにたくさんの活動を行っています。
これからも応援よろしくお願いします!