初心者に優しい起業の仕方 | NPO法人を設立するとは | 起業家インタビュー③NPO法人eboard代表 中村孝一さん

今回は起業家さんに、起業の仕方にまつわる 「知りたかったけど他には載ってない実際のところ」をお届けするインタビュー記事第三弾です!

第一弾のTAKTOPIA代表、長井さん、第二弾のTiger Mov CEO菊地さんは株式会社という立場でしたが、今回はNPO法人編です!

皆さんは起業する人を特別な人と思っていませんか?

起業を考えても起業の仕方が分からず、ぼんやり考えて終わっていませんか?

社会人の働き方は多様化し、起業なんて考えたことなかった人も起業する日が来るかも知れません。

起業はもう誰にとっても遠い存在ではなくなりつつあるのです。

このシリーズを読んでいただければ、起業を考えたことのない方でも起業のイメージや具体的な起業の仕方を知ってもらうことができます

でも実際の苦労やリアルな話を教えてくれる場所はなかなかありません。

だからこそこの記事では普段はお話してもらえない創業時の地道な活動や、ディープな裏話をSIFメンバーが遠慮なく掘り下げ公開します!


今回はeboard代表理事の中村孝一さんが登場です!

eboardは「学びをあきらめない社会の実現」をミッションに、学習サイトeboardの開発・運営、学校や学習塾等の教育現場への提供・支援活動を行っています。

【プロフィール】

中村孝一さん eboard代表理事

  • 大学在学時、学習塾や学習支援現場での経験から、子ども達の学習課題を痛感。外資系コンサルティング会社勤務を経て、eboardを創業。2016年より、世界経済フォーラムGlobal Shapers Osakaハブメンバー。

NPO法人eboard

■ 事業内容:

  1. 学習サイトeboardの開発・運営
  2. 他の学校・教育機関へのICT活用、学習支援等に関する研修・サポート事業
  3. ICT活用、学習支援等に関するコンサルティング事業

■企業サイト:https://info.eboard.jp

【取材】SIF 2名 川上(代表)・RIKUHIRO

目次

NPO法人設立前から感じていた根本的な課題

学生時代から教育に関わり続けてきた中村さん。教育現場に対しどのような課題を感じ、NPO法人の設立に至ったのか伺いました。

教育にはもっと構造的な課題があるはず

RIKUHIROーーまずは中村さんが、教育に対してどのような課題を感じているのか教えてください。

学生時代からずっと学習塾に関わり、学習支援のボランティアもしてきました。

当時からずっと「子供の成長に自分の時間を使いたい」と考えていました。

当時に比べると、経済的に困窮している家庭に対しては、自治体やボランティア団体を利用したサポートをするケースが増えています。

それ自体は良いことだと思います。

ただ私が学習支援の現場で感じていたのは、教育の課題はもっと構造的なところにあるということです。

毎年毎年、貧困家庭に子どもはうまれますし、毎年毎年不登校になる子どもはうまれます。

でも、なぜそういう子どもたちがうまれるのか、という根本の課題の解決策がないと感じていました。

今の教育は同じ課題に対して、毎年同じリソースを同じように使っています。

本来は同じ課題にずっと取り組んでいると、コストは毎年減っていき、出来ることも増えていくはずですよね。

でも、なぜか今の教育はそのような構造になっていない。

「新しいアプローチ」にNPO法人設立でチャレンジを決意!

RIKUHIROーーなるほど。構造的な課題を解決するためには、NPO法人を設立する必要があったのですね。

私は「世の中の未来は明るくなるというより、世の中は暗くなっていく」という前提で活動すべきだと思っています。

やはり高齢者社会の日本では、基本的に子どもたちの支援に対してお金がまわりづらい。

その前提にたった時に、今のNPO法人や学習支援の形を根本的に変えなければ問題解決にはならないと思いました。

つまり、もっと新しいアプローチが必要だと考えたんです。

ちょうど2011年、2012年くらいから、欧米ではオンライン教育が本格的に出てきましたし、これを使って支援することが構造的な課題の解決につながるかも知れないと思いました。

一人一人へのインパクトは小さいかも知れませんが、子どもたちの抱える課題の根本は同じだと考えたのです。

それがICT教材に関わる事業でNPO法人を設立しようと考えた一番の理由です。

子どもの可能性を切り開けるかは◯◯にかかっている

なぜそこまで学習なの?と思われるかも知れません。

もちろん世の中を良くするためなら、もっと福祉的な支援も案としてはあると思います。

ただ、これは完全に自分の価値観ですが、そしてその子が自分の可能性を切り開けるかどうかは、学べるかどうかにかかっている。

これからの社会はこれまで以上に学ぶことが大切になっていくと思います。

だからこそ、その力をつけてあげることがすごく大事なんです。

NPO法人設立と現在の事業に至るまでの想い

創業後は主に地域復興の事業に力を入れていたという中村さん。どのような経緯で今の事業に行き着いたのか伺いました。

自分たちで取り組む課題と、取り組まない課題

これまで地方で3年ほど事業をさせていただいて、感じたことがあります。

それは、我々が同じように支援させていただいても、現場の人の力量と熱量によって、取り組みの効果や継続できるかが決まってしまうことです。

そこで、eboardは課題を大きく二つに分けて捉えています。

一つは環境に起因する課題です。

例えば経済的な困窮、地域格差、適切な人材が整っていない地域などです。

ここに今のeboardのサービスを導入しても、直接的な課題の解決には繋がりにくいと思っています。

一方で、本人の特性に起因する課題もあります。

例えばアクセシビリティは本人の特性に起因する課題です。

その子の”やるやらない”はあったとしても、適切なサービスがあれば解決することが出来ます。

難聴の子どもが、字幕がついたことで学べるようになる。

それはもう他の人が介在しなくても解決できる問題で、eboardのサービスで解決することが出来ます。

「障害」というニッチでメジャーな課題

今eboardの取り組みのキーワードは”障害”、広い意味でのバリアを取り除くことです。

政府のGIGAスクール構想もあり、1人1台のタブレットが広まりICTのコモディティー化が進んでいます。

それでもなお学びに困難を抱える子どもは、既存の教材や枠組みだと学びづらい子どもだと思います。

例えば、外国から来て日本語がわからない子どもは、全国で約5万人います。

また難聴の子ども、学習障害の子どもはすごくニッチな領域に見えるかも知れませんが、積み重なっていくとかなりの人数になります。

その子どもたちには、みんなと一緒の授業スタイルでは合わない”バリア”が存在します。

その”バリア”を取り除いていくこと。それが今後NPO法人としてICTと教育でチャレンジすべき領域だと思います。

ニッチな部分と捉えられ、すぐに大きな支援も入りづらいので、「では我々eboardがやりましょう!」という発想で取り組んでいます。

支援の形はさまざまで良い

一口に支援といっても、色々な形があると思っています。

例えば義手を作ることも、駅に手すりをつけることも、どちらも支援です。

義手は個人にカスタマイズされ、その人の課題にフィットしなければなりません。

カスタマイズされた義手はその人にとってクリティカルな支援になりますが、一方で同じ義手は他の人にはベストな解決策にはなりません。

我々は今、授業に字幕をつけるプロジェクトに取り組んでいます。

これは、”あの駅の階段に手すりをつけましょう”に近い発想の取り組みだと思っています。

ほとんどの人は普段手すりは必要ありませんが、中には手すりが必要なおじいちゃんおばあちゃんがいたり、部活で骨折した時だけで必要という人もいます。

eboardのプロジェクトは、このバリアに対してアクセシビリティを上げたいという発想です。

薄く広くにはなりますが、そこまで個別化しなくても、支援できる人が増えるという感じです。

収益?やりがい?事業を選ぶ基準とは

RIKUHIROーーNPO法人の事業のイメージは湧いてきました。数ある課題の中で、eboardの事業はどのような基準で取り組む課題を選んでいるのでしょうか。

まず、事業の”やりがい”で決めることはあまりないです。

eboardの場合、最も大切にしているのは、社会に与えるインパクトの大きさです

例えば、収益性は高くないけどインパクトは大きいような事業。

それは赤字でも他から収益補填してでも、やるべきだと思っています。

そのためにも収益を優先する事業や、それぞれの事業に意味を持たせることが大切です。

我々のもう一つの基準は、事業としてちゃんと収益があげられるかということ。

社会性は多少低くても、他の事業を支えられるような事業になるのであれば、収益優先の事業もやる意味はあると思います。

教育事業は実は儲からない!?

収益の話をすると、そもそも教育はお金儲けにはあまり向かないと思っています。

教育の凄く難しいところは、基本的に勉強したくない人が大半という事です。

例えば、ゲームをしたい、漫画が好きという人はたくさんいます。

一方、勉強は頑張ってやるものという考え方が、特に子どもには多いと思います。

そう考えると、どうしたらお金を払ってまで勉強するか、というところに教育事業の障壁があります。

もう一つ難しいのは、子どもをターゲットにすると受益者とお金を払う人(意思決定者)が違うところです。

そこでズレが起きてしまうとお金の回収率に影響してくるので、教育事業は基本的にお金の回りが悪いという感覚です。

お金儲けだけするなら教育事業はオススメしません(笑)

NPO法人を設立し経営する。その”舞台裏”

NPO法人の経営は株式会社とどのような点が違うのでしょうか。また代表としての役割にも違いがあるのか、伺いました。

そもそもなぜNPO法人を設立しようと思ったのか

RIKUHIROーー創業時にはどのような組織形態にするか、さまざまな選択肢があったと思います。NPO法人を選ばれた理由を教えてください。

個人的な意見ですが、NPO法人と株式会社の基本的な違いは、”第三者からの出資を受けられるか”、くらいにしか思っていません。

第三者から出資を受けるべきかは、事業で先行投資を必要とするかだと思います。

少し極端に言うと、先行投資を必要としない事業のケースであれば、株式会社でもNPO法人でもどちらでも構わないと思います。

NPO法人の方がソーシャルなイメージがありますが、ブランディングはマーケティング次第です。

どちらかというと、やりたい事業とお金の流れの問題だと思っています。

第三者の出資を受けるということになると、必ずエグジットしないといけなくなりますよね。

つまり事業を買ってもらうか、上場するか、大きな括りではこの二択です。

でも2013年に創業した時点で、私はICTの事業でエグジットできるとは全く思いませんでした。

また、事業をやっていく上で”eboardを無料で届けたい”という想いが強くありました。

でも出資を受けると、無料で届けるという大きいポリシーが外れてしまう可能性があるので、NPO法人の方が内部も外部も分かりやすいと思いました。

なんで無料なんですか?という疑問に対して、「NPO法人だからです!」と言ったらそれで通るかなって(笑)

ただ当時そこまでクリアに考えきれていたかというと、正直そうでもないなく、何となくそう思っていました。

NPO法人、やってて良かった!と思う瞬間

特に嬉しいのはユーザーからのメッセージをいただいた時ですね。

「eboardがあったから学べるようになりました!」とか。

その子の学習、場合によっては人生が変わったんじゃないか、と感じる。

そこに関わることはすごく嬉しい。

ただeboardの発想としては、その子にとって何か良くなれば手段はなんでも良いんです。

その子どもの人生が変わること。

そこにはいくら払ってもいいじゃないですか。

もちろんeboardを気に入って使ってもらえれば良いですが、eboardであることより子どもにとって何が良いのか、という視点が大切だと思っています。

NPO法人の目的や理念と、実際の収益やインパクトは両方大事だと思います。

現場にでたい。それでも我慢する理由とは

RIKUHIROーーNPO法人の代表をされてきて、中村さんが考える代表のあり方について教えてください。

すごく小さいことですけど、自分はなるべく手は動かさないようにしています。

代表の理想的な役割は、資金の調達と採用、そして会社の方針を定める、この3つだけだと思っています。

いかに代表がそこに早く集中して、その3つだけをやれる状態を作れるかだと思います。

究極言ってしまえば、細かな事業計画は立てれる人にお願いすれば良いです。

ただ私も本当は経営よりは事業をしたいんです。現場で課題を解決したいんですよね。

でも自分が課題解決に取り組んでいる時は、できることはとても小さいなって思います。

お金にならないと思われる課題解決に取り組み、いかにみんながそれを仕事として生活を支えるものに出来るか。ここを考える事が、経営者や代表の仕事だと思っています。

過去をふり返って思う「NPO法人設立は始め方が肝心」

RIKUHIROーー今振り返って、ここはこうしておけば良かった、と思うところはありますか?

あの時こうしておいた方が良かった、ということはたくさんあります。

でもそれは、それだけ自分が成長していることだって思っています。

そこでつくづく思うのは「もっと早くちゃんと経営に注力すべきだった」ということです。

経営にいかに早く着手出来るか。

鶏が先か卵が先かみたいな話になってしまいますが、そこに早く行き着くには①最初の投資があること、②自分の経営の力が足りない時に補ってくれる人、相談できる人がいること。

この二つがすごく大切です。

経営の力は経営しないと伸びないと自分は思っています。

現場に行きたいと思うことは、いまだに多いですけどね(笑)

真相を知りたい!NPO法人のお給料

次はさらに切り込んで、お給料の話を伺いたいと思います。NPO法人のお給料はどのように決まっているのかご存知でしょうか。この点についても、優しい中村さんは嫌な顔せずお話してくださいました。

意外と知らないNPO法人のお金の流れ

RIKUHIROーーNPO法人て、正直お給料があまり高くないイメージなんですが、実際はどうなんでしょうか。

確かに相対的にはそういう面もありますが、全てのNPO法人が、という訳ではないと思っています。そこはやり方次第です。

社員も代表も含めて、給料をどのように割振るかは、お金の流れを整理して考えた方が良いと思います。

NPO法人にはお金の入り方として、基本的に3つの型しかありません。

一つ目が寄付ですね。

二つ目は事業型収益です。eboardのように自分たちで事業をして、そこから収益が出る場合です。

三つ目が受託型で、行政から委託を受けて学習支援をしたり、福祉的な事業をすることが該当します。

全部お金の入り方が違いますが、大切なことは、いかにコンスタントに収益を確保出来るか。

それによって常勤職員が雇えるかが決まります。

つまり”いかにこの積み上がる収益を早く作るか”がすごく大事です。

NPO法人の事業は、基本的に人件費がかかるべき、と私は思っています。

ただ一方で、多くのNPO法人は委託や小規模の寄付で回しているケースが多く、それだけだと安定した雇用は難しくなってきます。

自分の給料を上げるのは一番最後

RIKUHIROーー社員や代表のお給料はどのように決まるのでしょうか。

スタートアップだとシード期*が終わったら月給これぐらい貰うのが平均的、といった基準はググると出てきます。

eboardの場合、スタッフのみんなが本当によくやってくれてると思っているので、彼らの給料をちゃんと上げてから最後に自分の給料、と思っています。

その目安となるのは、毎年必ず入ってくる収益がどれくらいか。

そこをベースに考えているという感じです。

*シード期:ベンチャー立ち上げの準備期間

待遇ではなく共感でつながる

RIKUHIROーー優秀な人たちがNPO法人に集まってきている感覚はありますか?

NPO法人にも優秀な人材は集まってきていますが、単純に転職市場が活性化して、人材の流動性が上がってるからそう感じるだけかも知れません。

“副業可”の企業も増えているので、eboardでもインターンや業務委託のような形態も増えています。

eboardはリモートも出来ますしね。

例えば、本業でマーケターをされている優秀な人が、週10時間とかさいてくれるケースがあるんです。

スキルからすると他ではもっと良い待遇になる社員も、ミッションに共感してもらえるからこそ一緒に働いてくれています。

eboardが目指すこれからのNPO法人

最後に中村さんの考える、今の教育に必要なこと、そして今後eboardが目指していく世界と展望について伺いました。

時代の波に乗れるか

RIKUHIROーー創業当時考えていた課題に対して、実際にやってみて「実はこっちか!」とか、課題の変遷があったら参考に教えてください。

基本あまり無いです。

無いですが、同じ課題であってもそれをどう捉えるか、そして我々はその課題に対してどう在るべきかは変わらないといけない。

例えば”子どもの貧困”というテーマは昔からずっと変わりませんが、コロナの今だからこそ集まりやすい寄付とか、ボランティアが集まりやすいトレンドはすごくありますね。

この”文脈に乗せる”ということは事業をする上で大事だと思うんです。

今のGIGAスクール構想やICT、オンラインで学びの保証ができる環境を作ることはすごく大事だし、これからの時代に絶対必要だと私は最初から思っています。

でも事業を始めた当初はパソコンがある家庭も少なく、今のようにスマホも普及していないので、そこではeboardより無料塾というアプローチが合っていたこともあると思います。

今は時代の変化もあり、ありがたいことに公教育からの申し込み全てには対応しきれないほどです。

やむを得ず制限を設けていますが、それでも問い合わせはどんどん増えています。

しっかりそのニーズに応えられるように、サーバの環境も良くしている、という状況です。

拡大していく市場の中で解決すべき優先課題を見極める

ICTによるコモディティー化はますます進んでいくと思っています。

それに合わせて、eboardが普通の教材として果たせる役割は小さくなっていきます。

一方で、市場自体は大きくなっているので、事業が小さくなるのではなく、全体に占める割合が小さくなっていく感じです。

だからこそ取り残されてしまう領域が生まれるし、そこを優先的に解決すべきだと思う。

でももし我々でなくてもそこを他の企業ができるなら、むしろ我々が取り組むべき課題が減ったと捉えられるくらいになりたいと思ってます。

そこでeboardにとって課題になっていくのは、そういう事態が発生した時に正しくpivot できるか、ということです。

「学びをあきあきらめない」というミッションに向き合う

例えば、ICT教材はどの自治体も手厚く支援するようになったから、無償のeboardは別に使わなくてもいいという世の中になった場合。

変にeboardの教材やプロジェクトに固執するのではなく、”学びをあきあきらめない”というミッションに対し我々は何をすべきか。

ミッションに対して純粋に向き合い、”この部分はまだ出来てないね”とか”これは今後さらに長期的に考えた時に課題になってくるな”と、切り替えて取り組めるか。

それがeboardの課題であり代表にとっての高いハードルでもあります。

その仕込みをちゃんと今からやっておかないと、急に切り替えはできない。そういう事を考えて何十年やってきた世の経営者は、本当にすごいなと思いますね。

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